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それでも飲まずにいられない
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 小さな赤ちょうちんが、ポツンと吊り下げられた小料理屋がある。

 建物も古く、家屋の一部が店になっていた。

 薄暗いカウンターの前には、サザエさんの母「ふね」さんに良く似た、68才の

 女将さんが、エプロン姿で立っている。

 客達からは、「サザエさんの店」と、呼ばれていた。

 人通りの少ない処に店があるので、客達で満たされることはなかった。

 先頃、整備工場の社長が、脳いっ血で倒れた。

 今、近くの病院に入院している。

 常連のボスでもあった社長と女将は、いつも、カウンターの隅で、

 小唄など口づさみながら、盃を交わしていた。

 まるで、時間を逆回しした、恋人同志の密会そのものだった。

 貧しい小料理屋なのだが、何故か、珍重されている「鯨のベーコン」が、

 いつも置いてあった。

 社長は、この鯨のベーコンが好物で、ぐい呑みの前に、毎夜、飾りつけられていた。

 今、私の前にも、鯨のベーコンが光っているが、

 「ふね」さんの言葉は、海に沈んでいた。
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 カウンターの隅にコップを喰う男がいる。

 男は、酒場のツケが貯まると、この荒業に命をかける。

 いつも、月末になると、ツケが重なりあって狂乱する。

 所得に酒代が追いつかないのだ。

 ツケを請求されそうな晩、ひと通り飲んだ後、コップを静かに「パリッ、パリッ」と、

 かじり始める。

 ノド仏が上下して、飲みこむ気配もする。

 ガラスの破片が、口の中を通るのだから、口内が切れ、血が流れ出る。

 その形相を見たママは、気味悪がって、追い立てるように、男を店の外へ放り出す。

 男は、口元の血をぬぐいながら、ニヤッと笑い、小さく呟いた。

 「 フーッ、 今夜も、勘定払わずに済んだなっ・・・・・・ 」

 しかし、残念なことに、この荒業は、一回しか通用しないのが欠点だった。

 そこが・・・・・・「 残念だっ!! 」 と、ため息をついていた。

 ある日、男は、疲れきった仕草で、

 「 俺は、ねっ、カウンターの上の電球を抜き取り、パカンと割って、煎餅をかじる様な

   音を立ててバリバリ喰う時が、一番幸せだ! 」 

 と、石臼の様な歯を見せて笑っていた。

 しかし、最近この街で、男の姿を見かけない。

 噂によると、となり街で、口元を血で染めながら歩く姿を誰かが見たとか・・・・・・・・
 「 ゴジラ 」を肴に、酒を飲む男がいる。

 今は、蒲団屋を営んでいるのだが、かつて、東宝撮影所で、 

 大道具の仕事をしていた。

 その時、「ゴジラ」誕生の歴史に、立ち会っている。

 酔いが高まってくると、きまって「ゴジラ」の話になる。

 「ゴジラ」という、奇想天外なキャラクターを生み出す現場の作業は、

 苦闘そのものだったらしく、スタッフの話になると、涙ぐんでいた。

 15歳の春、東京の洋服屋での丁稚奉公が始まった。

 男は、その積み上げた技術を武器に、大道具の世界へ転身した。

 男の目には、映画の世界は「夢」そのものであった。

 夢を見た男には、「ゴジラ」は唯一の青春だった。

 涙で、酒を揺らしながら語る男を見ていると、ある時代が膨らんできた。

 男は、鼻っ柱を指で拭きながら、白波のお湯割りを飲み干した。

 立ち去る男の後ろ姿が、ふっと、「 ゴジラ 」に、見えた。


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プロフィール
HN:
村上かつみ
性別:
男性
職業:
 イラストレーター
趣味:
自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
で、街へでるか!
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