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それでも飲まずにいられない
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 ギネスを小脇に置いて、私は、きり絵を作り始めた。

 マスターが、何事かと私に近寄ってきた。

 「あなたの顔を作るんです!」 

 男は、首をすくめた。

 ボーイが私の手元をじっと見つめている。

 黒紙の切れ端が飛び散るたびに、彼は、「さっ!」と、取り去る。

 私は、「ふっ、ふっ」と、切れ端を吹き飛ばしながら紙を切ってゆくので彼も忙しい。

 そんな事してくれなくてもいいのだが、断ることもできず手は動く。

 完成すると、マスターは、ニコっと笑いながら大事そうに壁に貼ってくれた。

 額がやわらかく光っていた。

 私は、恥ずかしさを吹き払う為に、三杯目のギネスを注文した。

 マスターは、来る客、来る客に、「こいつが、紙を切って作ったんだ!」と

 得意げに説明している姿を見ていたら、何故か寂しくなってきた。

 こんな事は、もうやめようと思いながら、ショルダーバッグを引き上げた。
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 常連客が、「日本の首都はどこだ?」と、議論をはじめた。

 赤鼻のおじさんが、「ホンコン」だ!と、力強く言い放った。

 一人の男は、「いや!チャイナだっ!」と、叫ぶ。

 どうにもこうにも結論がでないらしく、ついに、私に聞いてきた。

 「東京です」と答えると、「ホンコン」だと言い張ってきたスーパーマーケットの

 おじさんは、私から眼をそらした。

 「お前は、いつも、いいかげんな事言うんだから!」、仲間たちが激しく責め始めた。

 赤鼻は、「いや、ホンコン」だ!」と、譲らず、憮然として店を出て行った。

 日本人の私が「東京」だと言っているのに、眼の前の言葉を認めないのだからすごい。

 この風景を見ていると、もしかしたら日本の首都は「ホンコン」なのかもしれない、

 と思ってくる。

 それほど、おじさんは、毅然として間違っていた。

 立ち去る、彼の背中が輝いていた。
 新聞を読む姿が揺れていた。

 私が、昼すぎパブを覗いた時、彼は、一杯目のギネスに口をつけていた。

 それから・・・・・・・ 男の座っている丸椅子から温風が漂っている。

 何杯目かのギネスを注文した時、とろけた瞼を押し開き、

 マスターに文句を言い始めた。

 「 このギネスの金は、さっき払ったはずだ! ウイッ 」

 マスターが、「 いや、まだ貰ってないよ! 」と、静かに答える。

 背が低く小太りな男が、くるっと私の方に向き直り、

 「 お前、見てたろっ? なっ、ウイッ 」と、同意を求めてきた。

 私は、首をすくめて知らない振りをした。

 マスターが、小さくウインクをした。

 いつもの事なのだろう

 「 このギネスは、男の旅立ちへのプレゼントさ! 夢の世界への・・・・・ 」

 そんな言葉が流れたように思えた。


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プロフィール
HN:
村上かつみ
性別:
男性
職業:
 イラストレーター
趣味:
自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
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