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それでも飲まずにいられない
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 酒場の主人は、かつて、大手スーパーの鮮魚部に勤めていた。

 突然の脱サラ!

 今、妻と二人で、小さな居酒屋をやっている。

 素人料理だが、昔から料理が好きで、研究心も有り、まあまあの味付けをしていた。

 まったく、酒は飲めないと言っているのだが、店の棚には、名酒が並んでいた。

 久保田・八海山・越乃寒梅・一ノ蔵・司牡丹・西ノ関・七笑・田酒など、

 十数種類の日本酒が光っていた。

 本当に、酒が飲めない男なのか、私にはわからない。

 店のカウンターの上に、競馬の投票用紙がうず高く積まれている。

 この紙裏が客達の伝票になるのだ。

 金曜・土曜の夜は、競馬狂に、カウンターは占有される。

 新聞、赤鉛筆片手に、激論が交わされ、明日の夢が膨らんでゆく。

 店の隅に、特別メニューが、大きな文字で書いてある。

 今夜も、明日も役に立ちます!

 ☆ ハッスル納豆

  ( 納豆・ニンニク・オクラ・生玉子・山芋・マグロ入り鉢物  )

 競馬狂は、何故か、皆、このつまみを喰っている。
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 ビルとビルの間に、うなぎの寝床の様な形をした、くずれかけた立ち飲み屋がある。

 夕暮れに、まだ早い時だったが、仕事が早く終わったので立ち寄ってみた。

 しばらくすると、すでに酔いが完成した男が、引き戸を重々しく開けて入って来た。

 「 生ビールぅ  ちょうだいっ!・・・・ウイッ・・・・フーッ・・・・・ 」

 カウンターに上半身を乗せ、力なく飲み始めた。体を支えるのがやっとだ。

 昼前から営業している店なので、日中、酩酊した客に出会う事はめずらしく無いの      

  だが、これ程酔いが深まっている客を見る事は無かった。

 突然、男は、「 俺は 46歳なのに ウイッ 55歳にみられた!くそっ! 」

 ブツブツ呟き始めた。

 店のスタッフは、年増の三人娘?。チーフは、浅黒く丸い顔したアンパン娘、サブは

 下半身が異様に巨大化した小太り娘、サブのサブは、まな板に日本画風に描かれた

 顔を持つ、こジャレな娘、この三人があたふたと切り盛りしていた。

 男は、又、呟く 「 みんな可愛いねえ!! 」

 カウンターに顔をすりつけながら、「 ヨシオちゃん 可愛いんだもんねぇ 」と。

 「 ヨシオちゃん、46歳なんだから!! 」 左肩を落として叫ぶ。

 ポケットから、ゴソゴソと500円玉を出した。

 「 おかわりっ!! 」

 「 追加はダメだよっ! もう終わり、 帰んなっ! 」 アンパン娘が叫ぶ。

 そんな女達に向かって、まだ「 みんな可愛いねえ、 ウイッ・・・」と数回声をかける。

 女達は、何の反応もしない、目すら合わそうとしない。

 くずれかかる右肩を必死にささえながら「 みんな可愛いねえ! 」 と呟く。

 三人娘にとって、こんなに可愛いと連発される事は、近頃無いと思うのだが。

 「 ふん、 酔っ払いが・・・・・ 」 アンパン娘が足元に吐き捨てる。

 男は、最後の言葉を絞り出す様に「 俺、甲斐性ないから、あきれて女房出てったよ・・」

 「 俺、本当は、女房いたんだ・・・・・ウイッ・・・・・ 」

 これまで一言も会話していなかった、まな板の浮世絵が、裏切られたかの様に、

 「 なに、あんた女房いたの? 独身だと言ってたのに・・・・・・ !? 」

 「 いたんだよっ・・・・・・フーッ・・・・・ 」

 浮世絵が突然グラスを落とした、震えた指先がエプロンの下に隠れた。

 
 ある夜、総会屋系組織の忘年会に出席する事になった。

 黒塀に囲まれた、新橋の料理屋だった。

 事知らぬ私は、三面記事を覗き見する気で、軽く出かけていった。

 すると、玄関には、品のない派手な背広を着た海坊主がたっていた。

 「 先生! どうぞ! 二階になってます! 」

 私は、この男に、先生と呼ばれる立場になかったので、面喰らってしまった。

 二階の宴席に、尻ごみしながら、そろそろと入った。

 まずい事に、私は、上座の真正面の席に、つい座ってしまった。

 この場所では、組織の会長と正対してしまうのだ。

 「 しまったぁ! 」

 宴会が会長の挨拶から始まった。

 思った通り、会長は、真正面に座った私に向って任侠道を語り始めた。

 視線と指先が飛んでくる。

 「 そうだろう? 君っ! 」

 私に指先が向く。私の頭は、そのたび沈む。

 「 今の ニッポン国は・・・・・ 国民の未来に対し・・・・腐りきった政治家の・・・・で、

   共産主義に対抗した・・・・・・我われの・・・・・・だっ 」

 私の頭は、もうタイタニック状態だ。

 乾杯が終わり、飲みはじまった。

 私は、混乱した頭をしずめる為に、ビールを一気に飲み干した。

 来賓の挨拶など耳に届かない。

 盃を持った瞬間、海坊主がすっ飛んで来た。

 「 先生、どうぞ、一杯! 」 と酒をつぐ。

 タバコを口にくわえると、火が飛んでくる。

 私は、苦しいので、盃をやめて、コップ酒にした。これなら、ちょこ、ちょこ

 飛んでこれないだろう。

 私は、男達の視線からはずれる事だけに集中した。

 当然、この夜の酒は、「酔い」を持ってこない。

 いくら飲んでも水だ、水だーっ。

 酒が水になってしまったーーーっ。

   


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村上かつみ
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 イラストレーター
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自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
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ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
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