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それでも飲まずにいられない
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 昼頃、雨が降ると、暖簾が下りない酒場がある。

 梅雨時など、週に一・二度開くのがやっとだ。それに、週休二日とくる。

 免許を持たない主人は、昼ごろ、自転車で近くの朝市に買い出しに行くのが

 日課だった。

 雨に濡れるのが、殊のほか嫌いな男は、仕入をやめてしまうのだ。

 仕入が無いのだから、当然、長い準備中になる。

 男の料理は、素材の目立ても良く、上品な味付けで、客達には、

 すこぶる評判が良かった。

 母親の店を継いだ関係上、昔なじみの常連客も多く、いつも、カウンターの丸太椅子は

 客達のお尻で、温められていた。

 しかし、男は、あまり仕事が好きではないらしく、九時を過ぎると、

 行燈の灯を消してしまう。

 夕暮れ時から雨になった、ある日、めずらしく客足が遅く、その日三人目の客になった。

 三本目のお銚子を注文しようとした時、

 「 終わり! 今日は終わり! 帰ってよ! 」 と、主人が叫んだ。

 「 えーっ、 まだ六時半だよっ? 」

 「 いいのっ! 終わりっ! 」

 私は、雨降る街へ、追い出され、そして、灯りが消えた。

 休んでばかりいるので、客達は、文句を言うのだが、男は、何食わぬ顔。

 都合の悪い話になると、内暖簾の陰にス―ッと消える。

 こんな店なのだが、客達は、じっと店が開くのを待っている。

 常連の一人が、霧雨降る店先で

 「 んー、今日も休みかあ? 昼ごろ、雨降ってたかなあ? ・・・・・・・・ 」

 と、薄汚れたシャッターの筋目を、うらめしく眺めていた。

 男にとって、大雪や台風は、至福の時なのだ。

 雨音ほど、美しいシンフォニーは、彼には存在しないのだ。

 

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 正月も終わろうとしている夕暮れ、川端にある古びたラーメン屋に寄った。

 とりあえず、ビールでも飲もうかと思い、注文すると。

 「 寒いんで、ビール置いてないの、隣の酒屋で買ってきて飲んでいいよ! 」

 「 わかりましたぁ! じゃあ買ってきまーす! 」と、妻が飛び出した。

 ビールが来るまで、私は、コップ酒をひとつ貰った。

 突き出しに、黄色いタクアンが、三切れ付いた。

 妻が、缶ビールを抱えて、戻ってきた。

 さあ、飲むかあ!

 「 すみませーん! チャーシューつまみで、貰えますかあ? 」

 「 チャーシューない!! 」

 「 じゃあメンマつまみで! 」

 「 150円だよ! 」

 本格的なつまみを注文しようと思い、メニュー張り紙を見ると、

 酒のつまみになる品が無い、所々白い札が貼ってある、もちろん餃子にも。

 「 あっ! 焼きそばが有った! 五目焼きそば ちょうだい!! 」

 ビールには、なんてったって「焼きそば」なので、それで飲み始めた。

 この焼きそば食べたら、もう、つまみになる品がない。

 ラーメンつまみでは飲めないので、少しずつ大事に焼きそばを食べる。

 歳老いた主人の話によると、店を始めて、50数年になると言う、ラーメンで

 子供三人、大学を卒業させた!と、胸を張った

 そんな時、仕事着を着た、若い女が、入ってきた。

 「 おじさん! チャーシューメンちょうだい! 」

 「 ハイよ、チャーシューメン一丁! 」

 えっ? チャーシュー無かったのに・・・・「チャーシューメン」は、有るのだあ!

 私達は、年賀のタオルを貰って、すごすごと店をでた。 
 ある立ち飲み屋で、湯ドーフをつまみに、二杯目のウーロンハイを飲んでいると、

 隣の、疲れきった顔をした50がらみの男が、ゴソゴソとコートのポケットをまさぐり

 緑のパッケージのタバコを取り出した。

 この男の、タバコの吸い方は、煙がとだえることがない。

 次から次へとタッチされ永遠に続いてゆく。

 酒を一口飲んでは一服する、そして、灰皿の上に置く。その繰り返しだ。

 それとなく、男の袖口を見ていたら、左手にフィルターが覗いていた。

 両切りタバコを二つに割り、それぞれにフィルターを取り付けている。

 私に、見られまいとして、カウンターの下でやっているのだが、肩寄せ合って飲む、

 立ち飲み屋なので無理な話だ。

 カウンターの上に置かれたタバコは、洋モクの「ケント」だったが、ポケットから

 取り出された両切りのタバコは、国産の安タバコ「わかば」だった。

 つまり、「わかば」というタバコに、「ケント」のフィルターを取り付けて、

 洋モクの「ケント」を、吸っている様に見せているのだ。

 男は、悠然と得意気にケント風タバコを吸っていた。

 今日の疲れを吹き飛ばすかの様に。

 灰皿には、フィルターまで焦げついた吸い殻が、山となっている。

 改良されたタバコが「ケント」のパッケージに、はずかしそうに、寝ころんでいた。


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