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それでも飲まずにいられない
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 小さな港町のパブに、太い眉を持つ赤ら顔の男が、

 年老いた犬を連れて、入ってきた。

 丸椅子に座った男の影を見た時、「ふっ」と、潮の匂いがした。

 一杯目のギネスは、彼にとって、あまりにも軽すぎた。

 赤毛の犬が、よろよろと、私の足元で異国の匂いを嗅ぎわけている。

 男は、瞼を「ぽっ」と、赤く染めながら、四杯目のギネスを注文した。

 ギネスの泡が、節くれだった左指を濡らしている。

 生あくびをしながら老犬は、主人に帰りをせびる。

 男は、唇に小さく指をあてながら、七杯目のギネスを注文した。

 その時、重々しい鼻息が「フ~ッ」と、靴先に流れた様な気がした。
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 アイルランドのリムリックという音のない街に、深い緑色したドアを持つ、
 
 「 SOUTH‘S 」 というパブがある。

 赤みを帯びた御影石のカウンターの片隅で、ひとり「冬の猿」は、 

 ギネスのグラスを見つめていた。

 中国では、冬が来ても山へ帰らず、迷っている猿を「冬の猿」と、言うそうだ。

 冬の猿は、「俺の欲しいのは、酒ではなくて酔いなんだ!」と、うそぶきながら

 黒飴色したギネスのグラスを重ねていた。

 ・・・・・ギネスの泡が、血の色に変わるまで。

 フランス窓から見える「音のない街」は、まだ、霧雨に濡れていた。

 ある夜、酔いすぎて、自転車を駅近くの居酒屋の軒下に置いて帰った。

 草臥れた自転車だが、私の生活にとって、かけがえのない道具だった。

 翌日、昼飯がてら取りにもどった。

 「 ない! 自転車がない! 」

 酔っ払いにやられた!と直感した。

 酔って、歩いて帰るのが面倒になって、失敬したのだろう。

 私は、歩いて十五分ぐらいのエリアを重点的に、捜し始めた。

 なかなか見つからず困り果てた頃、昨晩、酒場で同席していた男に、バッタリ出会った。

 「 どうしたの、こんな時間に? 」

 「 いやあ、まいったよ、置いて帰った自転車ないんだよ? 」

 「 この辺、自転車泥棒多いからねえ・・・・・ 」

 しばらく、あれこれ二人で、自転車が捨ててありそうな処を考え合った。

 男は、私の推理を全て却下して 「 あっちの方、探してみなよ、絶対ありそうだよ! 」

 「 俺、仕事行くから、夜、又ねっ! 」

 男が予言した坂道を登っていった。

 すると、白いマンションの駐車場に、私の自転車が弱々しく置かれていた。

 んっ、待てよ?このマンション、あの男の、・・・・ マンションだーっ!!

 その瞬間、犯人は、あの男だと確信した。

 どうりで、ピタリと当てるはずだ。怒りが飛んで、哀しくなってきた。

 その夜、「 自転車泥棒 」の話で、酒場は大いに盛り上がった。

 「 今夜の酒代、罪人持ちだよ! 」

 「 何言ってんだよ、自転車見つけた恩人に払わせるのかよ! 」

 男は、叫んだ。

 しかし、男の罪は、客達によって確定された。

 


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プロフィール
HN:
村上かつみ
性別:
男性
職業:
 イラストレーター
趣味:
自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
で、街へでるか!
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