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それでも飲まずにいられない
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 「 昔、俺の女は、リンゴの木のような人だった 」 と、

 タイル屋の社長が、詩人気どりで、呟いた。

 社長は、石原裕次郎が好きで、裕次郎の歌以外、カラオケで歌う事はなかった。

 「 俺は、大学で、裕次郎と同級だった 」 と、うそぶく。

 駅裏に、酒場が密集している横丁がある。

 男は、この一角に、月・水・金・土と、必ず現れる。

 ある日、社長は、夢子に恋をした。

 夢子は、肉づきの良い小柄な女で、オカッパ頭から覗く幼な顔からは、

 年令を読む事はできなかった。

 社長と夢子は、連れだって、この横丁を飲み歩く日が続いた。

 社長が飲んでいる処に、夢子が追いかけてくる型だった。

 秋風が吹く頃、二階のスナックで、大きな音がした。

 社長が夢子になぐられ、椅子からころげ落ちた。

 年増のママに手を出したそうだ。

 夢子の話によると、ママとは中学の同級生だったそうだ。

 この事件のおかげで、夢子の歳が解明された。
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 駅前に、五階建の小さな雑居ビルがある。

 一階は、オーナーの洋品店、二階は、寿司屋とスナック喫茶、

 三階は、大型パブスナック、あとは事務所になっていた。

 オーナーは、商店街では、偏屈者と嫌われていた。

 棚からボタモチ式で、ビルやら土地を相続することになり、仕事経験も浅く、

 人の気持ちがわからない大人に育ってしまった様だ。

 ある寒い冬の日。

 喫茶店のマスターが、あまりに店内が寒いので、暖房の温度をもう少し上げて

 くれと、オーナーに頼んだら、

 「 寒かったら、ジャンバー着てやれよ! 」

 と、言われたそうだ。

 ある暑い夏の日。

 空調がきかず、ビル全体が熱い。

 オーナーが、喫茶店に、しかめっ面して入ってきた。

 「 オイ!あんまり汗かくなよっ、お前の汗が床に落ちて、しみになってしまうよ、

  あんまり汗かくなっ! 」

 と怒鳴られた。

 ある秋の夜。

 小型トラックにセットされた、ラーメン屋台がビル向かいに止まった。

 この街には、屋台が出ていないので、物めずらしさも手伝って、客が寄っていた。

 その様子を見ていたオーナーは、急ぎ警察に電話した。

 移動式屋台が、街角に停止して商売するのは違法だと言う。

 車と一緒に、歩きながらラーメンを喰えと言うのだ。

 この男のビルの空調は、深夜営業にもかかわらず、夜、十二時に、

 ピタッと止まる。

 そして、客達は逃げてゆく。
 獅子顔の、とてつもなく酒が強い男がいる。

 焼酎を、シングル、ダブル、ではなくトリプルで飲むのだ。

 グラスの中は、焼酎だらけ、それにホッピーで色付けながら飲む。

 毎夜、漫画雑誌を見ながら、四、五杯は飲んでゆく。

 正味、焼酎一升近い。

 深海魚の歯を持つこの男は、サンマ、イワシなど、頭からバリバリ丸喰いしてゆく。

 かさごの唐揚げなど、まるで塩センベイだ。

 こまいを喰うにも、金槌はいらない。

 この男の器には、小骨ひとつ残らない。

 ある日、顔色悪く、酒場に入ってきた。

 とんでもない目にあったそうだ。

 数日前、がん漬け( 佐賀県名産、塩マネキ蟹の塩から ) を喰っていたら、

 カニ爪の先が奥歯に刺さり、大出血し、歯医者に飛び込んだそうだ。

 えらく、はれあがり、しばらく物が喰えなかったそうだ。

 深海魚の歯を持つ、この男にも、蟹の爪は咬み砕ききれなかった。


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プロフィール
HN:
村上かつみ
性別:
男性
職業:
 イラストレーター
趣味:
自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
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