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それでも飲まずにいられない
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 この街に、奇人と呼ばれる文房具屋の一人息子がいる。

 男は、商店会の会合以外、酒場に現れる事は無かった。

 自分の金で酒場では飲まないのだ。

 夏近いある日、商店会の旅行があった。

 伊東温泉への一泊旅行だ。

 この独身男は、商店会会長の命令で、写真撮影を担当する事になった。

 「 名所処 」で、集合写真をパチリ、パチリ撮りまくった。

 ・・・・・・・ が、フイルムが入っていない事に気づいたのは、

 東京へ向かう、バスの中だった。

 事に気づいた仲間は、当然「お怒り」になった、そうです。

 責任の重大さを感じた若旦那は、翌日、ひとり伊東温泉へ向かった。

 記念撮影をした場所を、記憶を辿りながら、ひとつ、ひとつ「人のいない風景」写真を

 撮り始めた。

 しばらくして、その時の写真を、謝りながら商店街を配り回った。

 「 人のいない風景写真 」を。

 当然。

 人々の怒りが増幅して、商店街の中を駆け抜けた。
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 小さな駅前商店街にある小料理屋の常連に、デパートの呉服売り場に

 勤めている、中年の男がいる。

 男は、酒場に近い団地で、姉と二人で暮らしていた。

 朝、ダークスーツに身を包み、颯爽と風を切って駅に向かう姿は、

 社会人としての面子を充分に保っていた。

 職場では、着物を粋に着こなし、物腰も低く、人当たりの柔らかさは、

 仲間達に好感を持たれていた。

 この男が、酒場で、突然、女になる。

 お銚子三本までの人間が、四本目に手をつけると、ガラッと人格が変わる。

 「 ん~っ、 お兄さん、 好みのタイプだわぁ、 好きっ! ポチャッとした人好きっ! 」

 「 好きな人いるのォ? 」

 「 いるよ・・・・・ 」

 「 そんな女と、別れちまいなっ! 私と一緒になろうよっ! 」

 男は、客のネクタイを指で丸めながら、ホホを寄せた。

 「 あたし、 寂しいの、 好きになっていい? 」

 「 ねえ、ねえったら、ねえ!・・・ 」

 「 そんな事言われたって・・・・・俺、ヤッパ、 男、嫌いだよ・・・・ 」

 「 フン! 」

 男は、きびすを返して、左隣りの客の袖口をつかんだ。

 「 ん~っ、 お兄さんス・テ・キ! こけたホホ、好きっ! ん~っ、たら、ねっ! 」

 燗冷めした酒を、注ごうとしたが、手元が震え、客の袖口を濡らした。

 

 
 駅裏に、小さな飲み屋街がある。三坪たらずの店が寄せ合っている。

 その中の一つに、母親と息子、二人でやっている「もつ焼き屋」がある。

 母親は、酒が強く、又好きだ。

 五時頃から、客と飲み始めて、酔いすぎては息子に叱られていた。

 母の狂気的な行動に切れた息子は、時々、一週間ぐらい店を休むことがあった。

 ある日、近くの材木屋から、「もつ焼き」の注文がきた。

 この材木屋の社長とは、気が合うらしく、ことのほか仲が良かった。

 焼き上がった「もつ焼き」の大皿を抱えて、うれしそうに出前に出て行った。

 「 行ってきまーす! 」 と、明るい声を残して。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30分過ぎても、帰ってこない。

 40分、50分 ・・・・かれこれ一時間・・・・・・・・・

 「 おい! ママさん、どうしたんだよ? 」 客達も気になり始めた。

 息子は、「 どうしたんですかねえ? 」 と、平然としている。

 一時間半過ぎても、戻ってこないので、客の一人が材木屋へ様子を伺いに行った。

 ママさんは、職人さん達と一緒に,歌い踊り盛り上がっていた。

 「 ママさん! もう、一時間以上、過ぎたよ! 」

 「 いいの! あたし、この社長好きなんだから! 」

 「 社長の、兄弟船、聞くまで帰らないのォ、わかった? 」

 こりゃもう駄目だ!

 ママは、配達がとても好きな人だった。

 隣のスナックに届けに行っても、歌の2・3曲唄わないと、戻ってこない。

 この店で、一番困る注文は、「出前」なのだ。

 息子は、憮然として、時の過ぎてゆくのを、包丁に浸みこませている。

 ・・・・・・・ 小さなボストンバックが、棚から、静かに引き下ろされた。

 

 

 


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プロフィール
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村上かつみ
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男性
職業:
 イラストレーター
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自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
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