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それでも飲まずにいられない
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 夕映えを見ながら酒場に入ると、気になる姿の男に出会った。

 左半身が、あまり動かない。

 春を感じる季節だというのに、まだ、冬姿だ。

 ハンチング帽をかぶり、首にタオルを巻き、左手に手袋、左足首には補助器具が

 ついている。

 布バックとアルミの杖がテーブルの脇で休んでいる。

 男は、ビール一本以上、飲むことはなかった。

 隅っこのテーブルで、チビリチビリとビールを舐めながら、酒場の匂いを確かめている。

 男は、その昔、底抜けの酒豪だったという。

 しかし、今、栄光の時代を語る言葉は、グラスの底に沈んでいる。

 「ビール」と「つまみ」、この二つの言葉だけが、男の口を衝いて出る。

 体を壊す程、酒を飲んだ歴史のはてに・・・・・・。

 今、男は、ビール一本、飲む為だけに、酒場へやってくる。

 酒飲みの宿命か、酒で体を壊した男が、最後に、もう一度、戻ってくる場所は、

 やはり、酒場のほかにないらしい。
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 台湾のオペラ歌手が経営している中華料理店が、街はずれにある。

 オペラ歌手のママは、台湾の音楽大学の教授もやっているので、

 日本と台湾を、一年中行ったり来たりしていた。

 店は、昔、客だった男が、何故か、料理人に変身して、中華包丁を握っていた。

 この小さな店に、若い娘達が、ウロウロしている時がある。

 音大の教え子が、日本へ遊びにやってくるのだ。

 店の二階が、宿泊所になっているので、娘達は、必然的に

 手伝う事になっている。

 料理人は、休日、この娘達のガイドをすることになって、大変だ、大変だ、と

 ぐちをこぼしていた。

 店で、広東語が飛び交う風景は、異国の匂いを充分にかもし出していた。

 噂を聞いた、近所の男たちは、何を感ちがいしてか、

 娘達目当てにやってくる。

 料理人は、独身があまりに長かった。

 調理の手を止めて、男は言う。

 「 金かかってたまんないよっ! 今度の休みだって、ディズニーランドだよ!ホント、

 若い娘四人も連れて行くんだよ、たまんないよ! 」

 しかし、娘達に囲まれている料理人を見ていると、

 久し振りの春を楽しんでるかのようだった。

 隣のお寺の、しだれ桜が満開だ。

 棚の上の紹興酒が、ことこと笑っている。
 右手で口元を隠して話す癖のある、定年間近かな男がいる。

 男は、「 俺のつまみは、オッパイだよ! 」 と言って、

 ニヤッと笑った。

 奈良県から出てきて、もう長い、と目を伏せた。

 今、街はずれのアパートに、一人住んでいる。

 男の楽しみは、一日置きの酒場通いと、週末の競馬だった。

 不思議なことに、競馬の話は良くするのだが、儲かった話は、彼の口から

 聞く事はなかった。

 儲かった話をすると、事故でも起きそうに思っているのだろうか。

 競馬場に、一緒に行った人の話によると、確かに、馬券は当たっていた、

 との事だった。

 今日も、ニコニコ笑って、二階堂のお湯割りを飲んでいる。

 ときどき、脇を通りすぎる女の尻をさわって、楽しんでいる。

 「 このスケベ! バーカ  」

 「 ヘへへ・・・・・・ チエッ!  」

 口元を隠しながら、前歯にこびり付いた、冷奴のカスを、つま楊枝で、ほじっている。

 テレビの画面には、七五三のニュースが流れている。

 男の薄くなった白髪が、こきざみに揺れていた。


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プロフィール
HN:
村上かつみ
性別:
男性
職業:
 イラストレーター
趣味:
自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
で、街へでるか!
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