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それでも飲まずにいられない
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 男は、酒場で「つまみ」を、とらない事を哲学としていた。

 つまり、「 お通し 」 のみで酔っぱらうのだ。

 しかし、年に幾度か、油断して「つまみ」を、注文してしまう事がある。

 その時、男は、惚れた女を寝取られたごとく、悔しがる。

 急ぎ、注文を取り消そうとするが、いつも間に合う事はなかった。

 会話の勢いで、つい口がすべるらしい。

 注文してしまう品は、きまって「赤貝のヒモ」だった。

 醤油とワサビを使って食べるので、「ヒラメの刺身」を喰っている気分になるそうだ。

 私には、ただの「赤貝のヒモ」にしか見えないのだが、

 酔った男の目には「ヒラメ」が見える。

 そういえば、男の顔がだんだん「ヒラメ」に見えてきた。

 男にとって、「お通し」は、その日、その日、好きな物に化ける、

 ドラえもんの四次元ポケットなのだ。


 

 
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 「 名人 」と、呼ばれる将棋好きの老人がいる。

 男は、六月になってもコートとマフラーを離さない。

 真夏でさえ、素肌を見せることはなかった。

 今は、隠居生活で、山手線に揺られて、将棋所に出かけるのが日課だった。

 小遣いは、賭け将棋で稼いでいる。

 男には、将棋の帰りに、必ず立ち寄る寿司屋があった。

 そして、注文の品も決まっていた。

 ちらし寿司、アジの塩焼、お吸い物。お銚子は、どんな時でも一本キリ。

 客達は、将棋を指したがったが、相手することはなかった。

 ある日、腕に覚えのある中年男が、どうしても一局手合せしたいと駄々をこねた。

 名人は、はっきりしない。

 しびれを切らした中年男は、店の主人に、

 「 お銚子二本! こちらの名人に! 」と、大声で頼んだ。

 これで受けてもらえるだろうと思い、将棋盤の向かいに座ると、お銚子二本じゃ

 不足だったのか、鼻白む男に背を向けて、名人は言った。

 「 大将! それは、明日と明後日の分だっ! 」

 この寿司屋で、名人と手合せした客は、いまだに、一人もいない。
 居酒屋で、アルバイトの娘達に、徹底的に嫌われているサラリーマンがいる。

 ある自動車会社の研究室に勤務する、40を前にした、独身男だ。

 娘達に、ちょっかい出すのだが、誰にも相手されることはなかった。

 男は、高級住宅地に、緑豊かな庭を持つ大きな家で母親と二人、住んでいた。

 庭には、柚子や金柑、柿、ミカンなど、季節の果実が実っていると、自慢していた。

 大学は、有名私大の工学部卒だと、胸をはる。

 乗っている車は、もちろん自社の高級車、それもニューモデルだと、鍵をちらつかせる。

 げんなりした顔で、アルバイト娘が小鉢を持って通りすぎた。

 夏休み、ヨーロッパ旅行してきたと、現地で買ったケリーバックを見せ付ける。

 「 ボク、年収、結構あるんだよっ! 」

 と、胸ポケットから給与明細書を取り出した。

 男の自慢話からは、女の臭いがしてこない。

 「 ・・・ちゃん、今度、飲みに行こうよ! 」

 「 ・・・・ちゃん、ボクの高級車でドライブしようよ!・・・・・・ちゃん、今度、今度・・・・・・ 」

 振り向く娘は、誰もいなかった。

 男は、毎年、新宿の酒場で、元旦を迎えるそうだ。

 今年の大晦日、きっと、男は、身なりを整えて、電車に乗りこむのだろう。


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プロフィール
HN:
村上かつみ
性別:
男性
職業:
 イラストレーター
趣味:
自己紹介:
酒ばっか飲んであまり
仕事しないイラストレ
ーターなので、気が引
けています。
アイルランドへパブ百
軒めぐりの旅に出かけ
たり、リスボンで、赤
ワインに抱かれエクス
タシーに達したり、ブ
ータンで稗・粟焼酎を
飲んで、大漁節を踊っ
たり。と・・・
いつも、酒飲む口実を
考えながら暮らしてい
る。さて、0,5ミリ
のサインペン切れたの
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